全国150万人の”短編小説が好きな”皆さまいかがお過ごしでしょうか。鈴村リク (@alfbds0954) です。
最近Xで「身に覚えのない課題の提出を求められ、あたふたしているとその人から「これが認知症の方が日々感じていることです」とオリエンテーションで言われた」というポストを見かけて、あー記憶って本当に曖昧だよねと感じております。特にこの2~3年。
多分単純に加齢もあると思うんですが、外部に自分の代わりに物事を覚えてくれ、あまつさえリマインドしてくれるデバイスがあったり、調べたいときも指先一つで検索できたりする世の中ですからね。
単純に記憶に割く脳のリソースが減ってしまっていると体感的に思っています。
私も最近観たフィクションのキャラクターとか、全く名前が思い出せないんですよね。髪型とか色とか、キャラの属性的なことはすぐに言えるのに。
覚えたつもりであっても手ですくった砂のように隙間からサラサラと流れ出ている現状に少し危機感を持っています。
20年前のガンダムSEEDのキャラクター名をそらで言えていた自分は一体どこに言ってしまったのか。
さて今回遊んだのはそんな記憶の曖昧さに関するゲーム
『#未解決事件は終わらせないといけないから』です。
【ストーリー】
2012年2月5日、公園で遊んでいた少女・犀華が行方不明になったという通報があった。
警察は聞き込みと捜索を繰り返すが、事件は解決せずに未解決事件の書類ファイルに眠る。
清崎蒼警部の退職から12年後、ある日訪ねてきた若い警官。
彼女は清崎が解決できなかった「犀華ちゃん行方不明事件」を終わらせるよう協力を要請してきた。
清崎はバラバラになった記憶のかけらを思い出して再構成するが、明らかとなったのは犀華の周りの全員が嘘つきだったということだけ。
ざっくり感想
こちらは韓国のゲーム会社が制作した、アドベンチャーゲーム。
主人公が、後悔の念から自ら蓋をしてしまった記憶のピースを時系列順に繋げ、事件の真実を明らかにしていくゲームです。
特徴的なのはそのUIで、事件の捜査を行う主人公と、その事情聴取者のやり取りがSNSのタイムラインのようになっています。
ただし語られている時系列がバラバラになっているのはもちろんのこと、現在の主人公は記憶の混濁が激しくこの会話をしているのが事情聴取者本人であるとは限らないのです。
そのため会話の中にあるハッシュタグで区切られたキーワードをクリックして関連する話題を引き出していき、会話をしていく人物が誰であるかを特定していく必要があります。
このときの会話と会話が線でつながる演出が、日常生活であるような会話の中で別の記憶を思い出す瞬間を見事に再現していて悪い意味でのゲームっぽさ感じない。
ニュアンスは違いますが、ザッピングシステムのような感じで会話を繋げ続け、気づけば記憶は網目のごとく広がっていきます。
また、物語を進めていくと封印された記憶というものが出てきて、それを解かないと真実にたどり着けないようになっています。解除するためには推理で登場人物に関するプロフィールを当てたり、会話の時系列を整理したりと、アドベンチャーゲームとしての要素もバッチリ兼ね備えています。
個人的には大好きなPCゲームである『Her Story』を彷彿とさせる雰囲気で、手がかりが増えることで世界が広がり、記憶を繋げている作業に没頭していたら一気にゲームクリアまで進んでいってしまいました。
誰もが抱える秘密と救い
「この事件、初めて接したときにすごく驚いた覚えがあります。誰もがそれぞれの理由で嘘をついてました。」
というセリフがゲーム序盤に出てくるのですが、ゲーム全体をとても的確に表している名文です。
言葉だけを取ってしまうと、事件を隠蔽するために始まるライアーゲームといった印象ですが、事件の全容が判明する中盤以降ではその意味がガラッと変わります。
真相を明らかにするためについた、ブラフのような嘘。
誰かが誰かを想い、寄り添った結果の嘘。
自分が壊れてしまわないように自分自身についてしまった嘘。
それらの要素が複雑に絡み合った人間関係を解きほぐしていくと、残るのは優しさしかないんですよね。
そのことが救いになるというか、誘拐事件を題材にしているけれども最終的なテーマは人々の持つ思いやりと黄金の精神だったのだと気付かされます。
「もうこのまま未解決にしちゃおうよ・・・」「いやでも」「まじかぁぁぁ!」「いやせめて引導を・・・!」と、何回も心を揺さぶられつつ物語にどっぷりと浸れました。
エンディングに流れる作者のメッセージも心に染みる。
おわりに
当初はタイトルの『未解決事件は終わらせないといけないから』がなんてラノベみたいなタイトルと感じたのですが、終わってみれば、このタイトル以外ありえない相応しいと感じさせてくれました。
小説を読む代わりに遊んでみるのもおすすめです。