【感想・考察】『つぐのひ-アイの亡き声-』で垣間見たデジタルコンテンツの悲アイ

全国150万人の”一方通行ばかりの道路が苦手”な皆さまいかがお過ごしでしょうか。
鈴村リク (@alfbds0954) です。

Steamで2021年8月13日に発売されたホラーゲーム『つぐのひ』
その中でも今回はボーナストラック的に収録されたシナリオ『アイの亡き声』にホラーゲームの恐怖とは別の「デジタルコンテンツにおける時の流れの残酷さ」を感じたので、それについて書いていこうと思います。

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【そもそも】ホラーゲーム「つぐのひ」シリーズのまとめ+新作2作品が1本に

「つぐのひ」シリーズは主に日常の一幕を舞台にしたホラーアドベンチャーゲーム。
製作はImCyan(アイムシアン)さんが手掛けています。
操作方法は主人公を左に動かしていくだけというシンプルなシステムであり、30分もあれば誰でもエンディングに辿り着く、比較的ライトなゲーム。


いつもの帰り道、電車、ふと立ち寄った人形館などシチュエーションはさまざまですが、同じ道を歩いているはずが、日ごとに違和感や恐怖演出が増えていき、最後には目も当てられない惨状が広がっていくというコンセプト1本で勝負をするタイプのゲームです。
そのインフレっぷりが凄すぎて、怖いやら笑っちゃうやら…。ともかくそこが魅力なのは間違いないです。


そんなつぐのひシリーズの初期作品と、中興の祖を築いた作品を遊びやすいように1つにまとめ、それに加えて新作も2本付けるという大盤振る舞いをしたのが今回発売された『つぐのひ』なのです。お値段は980円とかなりのお手頃価格となっております。


ちなみに新作2本の内の1つである『つぐのひ-霊刻の踏切り-』シリーズの良さを継承しつつ他の作品との関連性を持たせているファンなら必ずプレイしたい作品になっており、こちらもかなり強烈な出来栄えだったんですが、プレイ後に感情を揺さぶられたのはもう1つの新作『アイの亡き声』でした。

大物Vtuberキズナアイとのコラボ作品『アイの亡き声』

キズナアイさんと言えば、Vtuberに詳しくない私が知っているくらいの超大物。
活動歴は今年で5年目を迎え、YouTube以外にもテレビ出演や音楽・ライブ活動と活躍の場は多岐にわたります。
ここ数年のVtuberブームの火付け役なのは間違いなく、世間的な認知度はピカイチ。後輩の勢いに飲まれつつもまだまだ最前線で戦い続け、界隈では「親分」と慕われているらしい。
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そんな彼女を題材にした今回の『アイの亡き声』。
物語はとある空き家に置いてあったPCから流れる「チャンネル登録してね♪」をアバンタイトルとしてスタート。4Kで撮影されているキズナアイさんにカメラがぐぐーっと寄っていくと左に動かすことができます。


どうやら収録が終わった彼女。スタジオを出て帰宅の途につく模様。
外に出ると、一面に広がる青空と草原。「今日もいい天気」と空を見上げて彼女が言いますが、その風景は完全にWindowsの初期壁紙
キズナアイがバーチャルな存在であることを改めて示す良い演出でしたねー。
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そのまま画面端に進むキズナアイ。そこには透明な円柱のエレベーターがあり、それによって自動的に上に移動。途中Windowsのロゴを模した人工衛星を眺めているとエレベーターが停止。
扉が開いて彼女は光の中へ消えていく。これで1日目が終了。


ここまではいつものつぐのひと変わらず。特に主人公のガワをキズナアイに変えただけだろうと思ったんです。
ところがその後、この作品のもう1人の主役ともいうべきキャラクターが登場し、そこからの日常は彼女の嫉妬と怨念渦巻く地獄へと変貌していきます。
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翌日以降、4Kで写されていた映像は劣化しザラツキが見え始め、PCのスペックは前時代的なものへと変更。空は荒れ大地は荒廃し、時折挟まれるエラー表示はこの世界が直面してしまった怪異の深刻さを物語っていました。
そしてなんとキズナアイ自身の微細なテクスチャすら、粗ポゴンから遂にはドット絵まで落ちていく始末。
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無慈悲にもつぐのひの世界に囚われてしまったキズナアイ。助けを求める亡き声もむなしく響くのみ。
つぐのひに登場する人物はだいたい理不尽な目に合うのですが、コラボものでも容赦はなかったですね。さすがImCyanさん。


彼女たちはいつか忘れられる存在なのか?(ちょっとした考察&妄想)

この作品において一番重要なキャラクターは、実はキズナアイじゃ無いと思うんです。
キズナアイは確かにつぐのひで怪異に巻き込まれましたけど、その前にもう1人怪異に巻き込まれていた人物がいたのではないかと思います。


それが2日目以降に現れたもう1人の人物でした。
ここであえて詳細は触れませんが、ざっくり言うとかつて1990年代終盤から2000代前半に存在した、まだまだ発展途上の荒いテクスチャで仕上げられた女子高生+メイド服のキャラクター


彼女は頭にキズナアイと同じぴょこぴょこを持っていて、キズナアイと表裏一体の存在として描かれていました、キズナアイのオルターエゴ、またはかつて誰かのキズナアイ本人だったのかもしれません。
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その証拠にゲームの中盤以降、キズナアイが次元の壁を越えてとある家屋を訪れるんですが、部屋の壁には彼女のポスターやコスプレ衣装(?) で埋め尽くされていました。
それだけ魅力的なキャラクターだったのでしょう。


シナリオ『アイの亡き声』は、日が進むごとにデジタル技術・歴史の逆行がおこなわれていました。 『つぐのひ-昭和からの呼び声-』と同様のシステムでしたね。
最終日の家屋にあったカレンダーに書いてあったのは1995年の文字。
一般家庭に広くパソコンが普及した最初の年でもあります。パソコンの歴史においてとても重要な年代であるのは間違いありません。


時代をさかのぼるごとにキズナアイの画像が乱れ、もう1人の彼女の影響力が増していったのは恐らく時代が逆行するにつれて力を取り戻していったからでしょう。


逆に言えば2021年代の現代において、もう1人の彼女は忘れさられた存在なのです。
ゲーム中、彼女の名前は遂に出てきませんでした。それはもう彼女の名前を知る人物がいなくなったからだと思います。
26年という月日はデジタルの世界において進歩と繁栄をもたらした分、過去の栄光はあっという間に風化してしまうのです。 そう考えると彼女の起こした行動に憐憫の意すらおぼえます


余談ですが、1997年にポストペットというサービスが開始されました。世代の人だったら「ピンクのクマのあいつ」というだけで分かるくらい一世風靡したキャラクターもいました。
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いま、クマの名前言えますか?


ここからは仮定の話ですが、もしVtuberという文化が10年20年と時代を経ていった時、キズナアイはいつまでも「親分」と呼ばれる存在でいられるでしょうか。
YouTube以外のプラットフォームができたり、革新的なカルチャーが出たりした時、私たちはキズナアイという存在をいつまで覚えていられるでしょうか
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こう考えていくと今回の怪異を創り出してしまったのは、安易に流行に飛びつき容易に忘れ去っていく私たちの心なのかもしれない。そう感じずにはいられません。


まさか私もつぐのひで恐怖以外の別の感情に直面するとは思わなくて、ちょっと困惑しましたね笑。
けれども逆を言うと誰かが覚えていれば、誰かがずっと応援し続けていれば、きっと彼女たちはずーーっと輝き続けてくれるのだと思います。
いや、そう信じたい。
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頑張ろう推活