【感想】本能が冷や汗をかく映画『CURVE』を観ました

皆さまいかがお過ごしでしょうか。鈴村リク (@alfbds0954) です。


たった10分弱の映像に、ここまで肝が潰れる思いをさせられるのは久しぶりでした。

きっかけはTogetterで見かけたこの方のツイート。



特に2枚目の画像に、一気に引き込まれましたね。
いったいぜんたい、なにをどう間違ったらここにこんな体勢で座っていられるのか。
気になったので、動画サイトのvimeoで観てきました。

CURVE from Lodestone Films on Vimeo.


結果、ホラー映画ではなく、本当に"怖い”映画だと感じました
昔、とあるゲームのキャッチコピーが「本能が、冷や汗をかく」でしたが、本当にそんな感じ。


絶対に体験したくない恐怖

『CURVE』はオーストラリアのLodestone Filmsが制作している短編映画。
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女性が目を覚ますと、そこは絶妙なカーブを描くコンクリート製の崖の上だった。両手はけがをしているのか血に染まり、崖の下は文字通り漆黒の闇が広がっている。というワンシチュエーションで物語は進みます。

ぶっちゃけてしまうと、見始めた人が誰もが思うであろう「なぜこの人はこんな場所にいるのか?」という問題に関して解決はされない。画面上で彼女が体験している不条理さを私たちも一緒に感じながら、9分51秒は過ぎていく。

シチュエーション自体が恐ろしいのはもちろんですが、その恐怖心を幾倍にも引き立てるのが環境音の数々
映画の冒頭、鈍色に染まり荒れている波の音と、気を失っている女性の顔が交互に映し出され、これから始まる物語の不穏さを引き立てていきます。


その後彼女が目覚め、自らの置かれた立場を理解できずに辺りを見回していると、崖下の方から金属を鋭利な刃物で傷つけているかのような不快な音があたりに響く。それは聞けば聞くほどに人の叫び声のようにも聴こえ、困惑が頂点に達した彼女が天を仰ぎ絶叫する瞬間をバッサリとカットしタイトルが出現。


なんという鬼畜っぷり。この世界は編集ですら彼女の敵なのかと。

音が、漆黒が怖い

BGMはなく、基本的には彼女の吐息衣服や靴がコンクリートと擦れる音、そして風がコンクリートに反響するゴウゴウという音がメイン。その中でも彼女の吐息が前面に出てくることで、孤立無援である感じが強調されて、より悲壮感が増していきます。

そして今回の舞台である妙にカーブがついている壁。
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まるで彼女が仰向けに横たわっているのが正しい世界のように、本当に絶妙なバランスで成り立っています。 ほんの少し体の向きを変えただけでズルっと滑りかける描写が挟まるので、趣味の悪いコメディもののようにも見えるから不思議。
加えて崖の下の空間が本当に真っ黒。製作者をして"abyss”と言わしめてるあたり、底なんて無いんじゃないかと勘ぐってしまいます。高所恐怖症の人や底の見えない空洞が怖い人にとっては、視ているだけでトラウマ必至でしょう。 f:id:alfbds0954:20200611201538j:plain:w600


と、ここまではシチュエーションはともかく"リアル”な描写で進んできた本作も、中盤以降少しテンションが変わってきて、若干オカルティックに。
ただ、あくまで演出の一種というか、うっすらと彼女の未来を匂わせるとともに、別の人間が同じようにこの場所にいたのではないか、とこちらの想像を引き立たたせるレベル に留まっていはいるんですが。全く趣味の悪い演出だこと(褒めてます)。

物語自体は、彼女が身を起こそうとしてずり落ちかけ、体勢を戻して落ち着いて再度挑戦するまでを延々と見せつけられるんですが、普通そんなの2回ぐらいみたら飽きると思うんですが、全くそんなことはなくて。
言葉は一言も発しないんですが、その体の動きや顔の表情で心情が伝わってきますし、彼女の俳優として画面に引き付ける力が強いというか、少しでも自分の力を分けてあげたい気持ちになってしまいます。

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応援せざるを得ない。
「頑張って!」
「体勢気をつけて!」
「左足だけ折りたたんじゃってるのキツイよね!」



彼女の奮闘を見つつ、ふとシークバーに目をやると、もう7分ぐらい経過してて、完全に物語に引き込まれていたことに気づくといよいよクライマックス。

ここから一気に状況が悪くなっり、彼女の心がいったん折れかけるんですよ。ただ、そこからとある動作が入ることで、まだ彼女が希望を捨てていないってことがこちらにも伝わってくる。
これまでにない状況にこちらも思わず背筋を正すんですが…



エンドロールもオープニングと呼応するような切れ味抜群の魅せ方。心臓を鷲掴みされたみたいにキュッとなりましたよホント。


ともかく壮絶な9分51秒を体験したと思います。
世の中的には、いろいろメタファーが含まれているのでは無いか?と議論されていますが、個人的にはシチュエーション1本で勝負した作品という意味以外はないかなって思います。きちんと怖かったし。



彼女と同じように手に汗握りたい人は、部屋の電気を消して、ヘッドホンをして挑むのがおススメです。